快適なオフィス環境を整えるために、防音対策の充実は大切なポイントです。周囲からの騒音が激しい場合、会議室(ミーティングルーム)での取引先との電話が聞こえなかったり、会議室からの会話漏れにより従業員の集中力が途切れて作業効率が低下したり、といった問題が予想されるでしょう。
また防音機能が充分でないと、情報漏洩の心配もあります。特に重要な話し合いが行われる会議室に関しては、会話や音声データなどが室外に聞こえないよう、しっかりと防音対策を施す必要があります。
ここでは、オフィスや会議室に備えておきたい防音対策について解説していきます。
実際のところオフィスワーカーの多くは人の声や生み出す音によって、集中力は大いに妨げられています。音楽や音響機器を取り扱っているような場合を除き、多くの企業において、防音性を求める理由は会話音声の聞こえ方を改善したいということが最たるものです。
一方的に聞こえてくる音や声は、働く人の集中力を遮るのに十分な効力を発揮します。米・コーネル大学のアラン・ヘッジ教授の研究によれば、働く人の74パーセントが、「同僚のたてるさまざまな音に迷惑している」と回答したそうです(Inc.より引用)。
情報漏洩のリスクについては、もはや言うに及ばないでしょう。
音には、空気を伝わって響く『空気伝播音』と、壁や床や窓などの固体を伝わって響く『固体伝播音』の2種類が存在します。防音対策では空気伝播音と固体伝播音の両方の伝わり方を軽減することが大事であり、そのために「吸音」と「遮音」「防振」「抑振」が機能必要になってきます。
「吸音」とは、空気や固体に伝播する音の波を吸収して小さくする防音方法です。代表的な手段としては、吸音材というものを床や壁などに貼るというものがあります。
「遮音」とは空気や固体を通じて外部から伝わってくる音と、内部から漏れ出す音を遮断する防音方法です。遮音材を用いたドアや壁などを利用します。
「防振」とは、周囲に振動が伝わらないようにすることで、低音振動の伝達を抑制したり、下の階に音を伝えにくくする防音法です。防振材やゴムマットなどを利用します。
「抑振」とは、振動する物体の振動する時間を短くし、振動面から発生するおとを抑える防音法です。ゴムシートや制振シートなどを利用します。
主に会話音声などの漏れへの対応がメインのオフィスの会議室の防音性を高めたいという目的の場合は、吸音と遮音のみで対応できます。
防音工事には様々な方法があります。ここでは代表的な施工箇所の特徴やメリットについて紹介します。
壁の防音リフォームを行う場合は、壁の中に遮音シートと吸音材(グラスウール・ロックウール)を入れることで防音効果を得ることができます。換気口などから音が漏れるようなこともありますので、換気口も防音効果のある換気口に交換します。そのほかに、パーテーションを利用することも考えられます。遮音性や吸音性を持つパーテーションを使用することも、防音対策として効果的です。
窓には防音ガラスの窓に交換したり、二重窓を付けたりすることで、音漏れや音の侵入を防ぐようにします。
扉には防音のフラッシュドアなどを使用することで音の侵入、漏れを防ぎます。
床材に防音効果のある床材を使用します。また、床材の下に遮音マットを敷いたり、グラスウールを敷いたりすることで、外部への音のほとんどを抑えることができます。手軽に防音を行いたい場合は、防音カーペットを敷くことで、簡易的に防音リフォームをすることができます。ただし会話の漏れを防ぐ目的のために、床の防音工事をすることはあまりありません。
サウンドマスキングとは、「同時に複数の音を聞いていると、特定の音をはっきり聞き取るのが難しくなる」という人間の聴力特性の原理を活かしたシステムです。「音を他の音で消す」そんなイメージ。音響設備の設置や購入が必要となります。
オフィスのセキュリティや従業員の集中力などの向上に役立つツールとして、サウンドマスキングシステムも有効です(下にある動画をご覧になれば理解を深められます)。
会話音をカバーする成分を持つマスキングサウンドをオフィス内に響かせることで、会話漏れや騒音などを聞こえにくくします。具体的には空調音のような背景音をわざと室内に分散させて、周囲の音をマスキングします。
サウンドマスキングシステムの取り付け工事は1~2日程度で完了するため、土日や連休のあいだに設置が可能です。また天井内に設置するタイプであればスピーカーも露出しませんから、オフィスの美観を損なうこともないでしょう。
他にもスピーカーをデスクやパーテーションや壁の内部に設置するタイプもあり、用途やオフィスの間取りに応じて柔軟に対応できます。オフィスや会議室(ミーティングルーム)の防音対策をより充実させたいのであれば、吸音材や遮音材の設置に加え、サウンドマスキングシステムの導入を検討してみるといいでしょう。
会議室(ミーティングルーム)の広さや、利用の仕方によって、どの防音法を用いるか、組み合わせるかが異なってきます。例えば、ネットを経由したオンラインでのミーティングなどを頻繁に行うのであれば、音漏れを気にする必要があるなど。
ここで注意したいのが、遮音によって遮断された音は反射しやすいということです。つまり情報漏洩を懸念して会議室(ミーティングルーム)を遮音材で設計した場合、「室内で発生した音が反射によってエコー状態になり、他の会話や音と干渉し合って聞こえづらくなる」という現象が起こる可能性があります。
したがって会議室(ミーティングルーム)のどこかに音を吸収する吸音材を設置するのが望ましいのです。吸音材を天井部分に使用するような組み合わせが考えられます。
オフィスは空調効率を考えて設計されているため、基本が静かな状態であることが多く、そうするとさほど大きくない物音や会話でも聞き取れてしまいます。それが許される空間と許されない空間があったり、業務内容によっても求める防音性は異なります。
大切なのは、何dB(デシベル)などと専門的なことはわからずとも、空間の使用目的とどの程度の防音を求めているかを設計事務所に伝えることです。
人の通常の会話やテレビの音量はおよそ60dB前後だとされています。そして一般的に人間の耳が聞き取りづらい、聞こえないと感じるのがおよそ20~29dBです。そのため例えば遮音性の場合、だいたい31dB以上の遮音性能を発揮できていれば、漏れ聞こえてくるレベルは「60dB-31dB=29dB」となるため、情報漏洩防止効果があると考えられるでしょう。
素材による遮音性能の違いに関してですが、アルミがおよそ20dB前後、スチールがおよそ35dB前後、LGS造作壁がおよそ60dB前後だとされています。このことから防音対策には、スチールかLGS造作壁が理想的だと判断できるでしょう。
ただし、施工条件などによって遮音性能は変化しますから、こちらで表記した数値はあくまで目安となります。
防音対策に使用する吸音材や遮音材を選ぶ際、機能性を重視するのはもちろんのことですが、オフィスは毎日のように通う場所なので、できればデザイン性にも注目したいところではないでしょうか。
オフィスのデザイン性を維持したまま防音対策を施すのに打って付けなのがウレタン吸音材です。ウレタンは吸音作用があり、さらに加工性も高いため、目立たない形状やおしゃれな形状に仕上げやすいという特徴を持っています。デザインによっては吸音材でありながら、インテリアのような効果を発揮することもあるでしょう。
また遮音性や吸音性や防振機能を備えた防音マットや防音シートであれば、床に敷くだけで防音効果が得られます。それから防音機能を持つカーテンの使用も有効でしょう。
特殊な織り方で吸音効果を持たせ、生地を金属でコーティングすることで遮音効果を持たせた防音カーテンなら、オフィスのデザインを損なうことなく防音対策が可能です。
オフィスの壁の防音工事は1平米あたり、「3万5000円〜4万円程度」が目安となります。楽器演奏などを対象とせず、隣の部屋の会話などが気にならないようにするレベルの工事についてです。
換気口の防音対策は1箇所あたり2〜5万円程度が目安となります。建材メーカーから既製品が販売されていますので、基本的には交換・取付けのみで完了するので比較的時間もかかりません。
窓や扉の防音工事については、「8万円程度〜」が目安となります。建具メーカーの既製品を使用することがほとんどなので、そのランクによって価格は上下します。
防音性に優れた会議室(ミーティングルーム)を設けることは、職場としてワーカーに集中できる環境を提供できるだけでなく、機密情報漏洩などのコンプライアンスの観点からのメリットを得ることができます。
オフィスの防音性という意味では、壁や天井、窓、扉に対する防音対策を行うことで概ね事足りるでしょう。しかしながら、企業によって求める防音性や環境もさまざまですから、設計事務所とはその目的や防音の程度についてしっかりと伝えておくことが必要です。
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