【オフィスメイキングnote.】APCO合同会社 様

(左から順に)
ユニオンテック株式会社 ワークスペースプロデュース事業部 プランニング&デザイン部 田邊敦子
同 ワークスペースプロデュース事業部 プランニング&デザイン部 プランニングG 櫻田莉紗
APCO合同会社 Managing Director, Tokyo 印藤聖子 様
同 Office Manager 近藤智子 様

(移転して)出社率が上がったのが嬉しいです。それに、オフィスでイベントをすることも増えました。以前は外でごはんを食べることが多かったのですが、今はケータリングを活用していて、歓迎ランチはお寿司が定番になっていたり、デリ惣菜専門店のケータリングサービスを頼んでお店の方にサーブしていただいたりして、みんなでランチを楽しむこともあります。"みんなで使えている感じ"が嬉しいです。

APCO合同会社 Managing Director, Tokyo 印藤聖子 様

“こんな会社にしたい”と思うイメージ、社員の働き方改善など、お客様が思い描くご要望に対し、内装デザインを通してユニオンテックがどのようにお応えしたか? プロジェクトの裏側にある“ストーリー”を覗くことができる「オフィスメイキングnote.」の第11弾。

今回お話をうかがったのは、APCO合同会社様の東京オフィス。アメリカ・ワシントンD.C.に本社を置くコンサルティングファームで、日本以外にも30以上の国と地域にオフィスを構えています。新オフィスは本社の担当者様とやり取りしながら、作り上げていったのだとか。その過程も含めてお話ししていただきました。

 

路線を気にしながら、倍の広さの物件へ

―― 東京オフィスの移転は、何度目なのでしょうか。(以下、敬称略)

印藤 1箇所目にあたる平河町(東京都・千代田区)のシェアオフィスも含めると、3回移転しています。平河町、永田町、青山と移って、今回の虎ノ門ですね。移転を決めた一番の理由は、前のオフィスが手狭になったことです。青山のオフィスは33坪くらいでしたが、職員19人が入るだけでいっぱいでした。弊社で受け入れているインターンの方も来るとなると、スペース的に余裕がありませんでした。会議室も足りておらず、私たちの働き方には合わなくなってしまいました。新しいオフィスは、60坪くらいあるといいなと考えていました。

―― 立地はどのあたりで探していましたか?

印藤 仕事柄、外出が多いので交通の利便性がいい駅近は第一条件。なおかつ、青山のオフィスと同じ路線の沿線で探していました。職員は青山に通いやすい場所に住居を構えているので、移転してからもなるべく通いやすいようにしたいと考えていました。

近藤 内見は10件以上しましたよね。

印藤 サービスオフィスや居抜き物件も検討しながら選んでいきました。そんななかで一番バランスが良かったのが、ヒューリック虎ノ門第二ビルでした。

櫻田 新築で、ビルもキレイですし。

田邊 あとは、窓からのビューも気にいっていましたよね。東京タワーが見えるので。

印藤 そうでしたね。最初は、このビルの低層階にするつもりだったのですが、契約しようとしたタイミングでたまたま12階の一角が空き物件として(市場に)出て。じゃあ、上の方にある物件のほうがいいよねということで、12階に決めました。

近藤 12階のほうが東京タワーがはっきり見えるので、個人的にも断然こちら派でした(笑)。

 

「オフィスに戻ってきてほしい」思いをデザインに落とし込む

―― ユニオンテックにはどんな流れで声をかけていただけたのでしょうか?

印藤 もともとは移転ではなく青山のオフィスを拡張しようと思っていたのですが、そのとき、営業の方にお問い合わせをしたのが最初です。

近藤 当時、ユニオンテックさんも青山にオフィスがあったので、ぜひと思いまして。

田邊 もう、1年半くらい前ですよね?

印藤 そうです。ただ途中で会社の方針が変わり、拡張ではなく移転することになりました。

―― では、移転先が虎ノ門に決まるよりも前に、ユニオンテックとはやり取りがあったのですね。

印藤 そうなんです。移転を決めた段階でコンペもしました。

櫻田 確か、弊社を含めて3社くらいお声がけをされていたとか。

印藤 そうです。コンペでは、各社からデザインや費用を提案していただきました。

櫻田 コンペの後にお電話をいただいて、印藤様が「3社のうちの1社が他より安い」とおっしゃっていたのを覚えています。コンセプト重視でまとめていた弊社の案をとるか、コストをとるかで悩まれていた印象がありますね。

印藤 そうして、やはりコンセプトを優先してくださっていたユニオンテックさんが良いという話になり、決めさせていただきました。

―― 提案した内容が良かったということでしょうか?

印藤 それもありますが、コンペへの向き合い方ですね。こちらの要望をしっかり聞いたうえで提案してくださったのが良かったです。それに、ユニオンテックさんとはオフィス拡張を考えていた頃からヒアリングをしていただいていたので、弊社のことをよく知っていただいていたのも選んだ理由としては大きいです。

田邊 初めてのヒアリングは、青山オフィスの拡張を考えているタイミングで、オンラインでやりましたよね。そこで、日本にオフィスを構えている背景や日本でももっと事業を展開していきたいという思い、働き方のポリシーなども聞いていました。

印藤 コロナ禍でリモートで働いていた職員にも再びオフィスに戻ってきてほしい、という思いもお話しさせていただき、また、コンサルティングはクリエイティブな仕事でもあると思っているので、オフィスに人が自然と集まってコミュニケーションを取れるような環境にしたいとお伝えしました。そうすれば、一人では思いつかないような新しいアイディアが浮かんだり、相乗効果が生まれたりするのだろうなと考えたのです。

田邊 そのお話を受けて、「青山オフィスを拡張するならば」というデザインを提案させていただいて。

青山オフィス拡張に関する当時の提案資料より

 

印藤 そのデザインがとても良いものでした。なので、虎ノ門への移転が決まってからも、デザインはあまり変わらなかったです。

田邊 そうでしたね。「青山オフィス拡張時のデザインとコンセプトを虎ノ門の物件に落とし込むと、こんな感じになります」とご提案差し上げたら、本国(APCO様本社)からも大きな変更のご依頼などはありませんでした。また、同じタイミングでAPCO様のブランドガイドラインが変わったんですが、それが提案していた新オフィスのデザインとすごくフィットしたんですよ、偶然にも。

印藤 あれは偶然だったのですね。

田邊 はい。企業名に「O」が入っているので、サークル型をデザインに取り入れようかなと早い段階で思っていたんです。円は人が集まりやすいとされているので、「オフィスに戻ってきてほしい」というコンセプトにもあっているからと。そんなときにガイドラインが変わって。丸い形のロゴが「すごくフィットしている!」と。

印藤 おかげで、デザインに関しては、本国が求めるものと差がなく、スムーズに決めることができました。

田邊 そうですね。多少の調整はありましたが。日本オフィスということで、和紙を使ったクロスや東京のランドスケープを描いた壁画、左官仕上げの壁など、日本らしい要素をたくさん取り入れたデザインにしていたのですが、そのまま活かすことができました。

 

虎ノ門への移転が決まり最終的にご提案した資料より

 

―― では、今回のデザインで軸にしていた部分はどこでしょうか。

田邊 パントリーです。青山のオフィスにお邪魔したとき、従業員の皆様がお土産を配ったり、お菓子を食べておしゃべりしたりする光景を頻繁に見かけて。ざっくばらんに交流するカルチャーが根付いているなと思ったんです。なので、みんなが自由に集まれるようなパントリーを新オフィスの核にしたいなと。加えて新オフィスはビューがいいので、執務スペースのデスクは窓に背を向けないようなレイアウトにしています。あとは、お客様をお通しできるような会議室を増やしたいというお話だったので、遮音性を有したお部屋を作らせていただきました。

印藤 青山のオフィスには会議室が2つありましたが、1つは消防法上、壁の上部が空いていたので部屋の外の音が聞こえてきていました。その点、今のオフィスの会議室は安心して使えますし、エントランスの横にあるのでお客様との打ち合わせにも使いやすいです。併せて、一人でコール(電話会議)する機会も多いので、周りを気にせず会話できるブースも作っていただきました。

 

アメリカと日本、物件の扱い方に大きな違いが

―― ちなみに、新オフィスを作り上げていくうえで、本国とミーティングをしながら進めていたそうですが、どういったお話があったのでしょうか?

印藤 担当者によってまちまちです。経理担当者なら金額について発言しますし、IT担当者はセキュリティと配線を気にしますし、マーケティング部門はブランドイメージを考えてデザインを確認します。しかも、世界中にあるオフィスの設立やデザインに関わっていたメンバーなので、それぞれにこだわりがあります。そして、各国に素敵なオフィスがあるので、参考になりました。

田邊 はい。写真を見させていただきました。

印藤 どのオフィスもデザインは異なりますが、「APCOのオフィスだな」と分かります。東京オフィスももちろんそうしたいと思っていたので、APCOらしさはなるべく踏襲したいなと。一番影響を受けているのは、ニューヨークのオフィスです。ニューヨークのオフィスマネージャーが、「東京の新オフィスにも色を入れてみては」と提案してくれました。「特に共有スペースには色を入れると明るい気持ちになる」と。

―― だから共有スペースのパントリーにはあんなに色が入っているんですね。

印藤 はい。APCOにはブランディングに関するガイドラインがあり、そこにはカラースキームの色指定に関するガイドラインもあります。空間のエレメントの色はそれを参考に選んでいただきたいと、ユニオンテックさんにはお伝えしました。
あとは、「社内イベントをやりやすいように、パントリーの椅子やテーブルは動かせるようにしたほうがいい」というアドバイスもあったので、そのようにしています。

田邊 デスクや椅子などのオフィス家具は、メーカーのショールームで印藤様たちに実際に選んでいただいたのですが、そのときには本国の方々もいらしていましたよね。

印藤 来ていました。機能やサイズ以外にも、色や素材を確認したかったようです。

田邊 ほかにいただいたアドバイスでいえば、エントランスから奥に向かう通路ですね。トンネルのように細い通路をとおり、広い執務スペースとパントリーに抜けるような造りにしているのですが、本国の方から「左側の白壁に木のルーバーをいれてはどうか」というアドバイスがあったんです。
ただ、奥のパントリーも木目なので、そこに木を入れてしまうと素材感が重なって、視覚的に主張が強くなってしまうような印象を受けたため、「スリットを入れるのはどうでしょうか」と提案しました。スリットのピッチ(間隔)を少しずつ広げていけば、壁の奥にパントリーの木目が見えて良いコントラストになりますよと。そのアイディアを受け入れていただけたのは良かったです。

―― そうして、APCO様らしいオフィスが出来上がっていったのですね。とすると、比較的スムーズに進んだようですね。

印藤 ただ、本社のあるアメリカと日本の物件の扱い方にかなり違いがあることが分かり、お互いの認識をすり合わせるのに時間がかかりました。例えば、アメリカだと原状回復の習慣がなく、置いていった備品はそのままですし壁紙も剥がれた状態で引き渡しになります。でも、日本の場合は原状回復するのが基本の考え方のため、アメリカと日本の常識には大きなズレがありました。

田邊 ましてや新築だとアメリカではスケルトンの状態で引き渡すのが一般的だそうで、本国の方々が「なんで新築なのに壁紙がもう貼られているの?」「絨毯が敷いてあるの?」「誰がお金を出したの?」と。その説明を本国の方にさせてもらったのが、櫻田さんなんですよね。

櫻田 はい。「日本では原状回復をするものなんです」「新築物件でも、壁紙と絨毯が貼ってあります」というところはもちろん、配線方式や電気の使い方など、ぜんぶ資料にまとめて説明させていただきました。そんななかで印象に残っているのは、天井です。アメリカだと、天井を張るのにお金がかかるから配管むき出しのまま使っているらしいんですよ。

印藤 言っていましたね。日本だと、天井の配管がむき出しになっているオフィスやお店はおしゃれだと思いがちですが、アメリカでは節約なのだそうです(笑)。そのような違いも、櫻田さんに説明していただきました。

櫻田 私は英語がしゃべれないので、近藤さんにサポートしていただきながらオンラインミーティングをしていたんですが、内装関係の専門用語が多すぎて、このまま近藤さんにサポートしていただくのも難しいなと思って。途中から、ミーティングアプリの翻訳機能を使って直接やりとりしていました。拙い英語でやり取りするのは心苦しかったですが、快く対応していただけてありがたかったです。

 

当事者意識を生む“ビジョナリーセッション”

―― 本国の担当者様からのオーケーが出てデザインがある程度決まった段階で、従業員の皆様を交えた「ビジョナリーセッション」を行ったと聞きました。具体的にどんなことをしたのでしょうか?

田邊 働き方、色、素材といったオフィスインテリアにまつわるいろんなパターンの写真を用意して、全員の好みを聞き出し「オフィスに本当に求めているもの」を見つけ出す工程です。例えば、「黒が好き」という方に「なぜ黒が好きなのか」と掘り下げるような質問をしていくと、「落ち着くから」という答えが導き出せたとするじゃないですか。ならば、この人が求めるオフィスは落ち着く空間だということになるんです。実際のビジョナリーセッションはもっと複雑ですけどね。
今回の場合は、今進めているデザインの方向性で本当にいいのか、大きな齟齬はないか確認するために行いました。加えて、従業員の皆様にも「オフィス移転プロジェクトに参画した」という意識が生まれるといいなと思い、取り入れさせていただきました。

近藤 個々の意見をシンプルに聞いただけだと分かりづらかった“理想のオフィス”が明確になって、面白かったです。ときには「そういうオフィスがいいよね」と共感できることもあって、いい時間になりました。

田邊 そう言ってもらえてよかったです。

実際にビジョナリーセッションを行ったときの様子

 

―― では、実際に完成したオフィスを使っている従業員の皆様の反応はいかがでしょうか?

印藤 とても好評です。オフィスマネージャーとしては、出社率が上がったことも嬉しいです。オフィスでイベントをやることも増えました。以前は外でごはんを食べることが多かったのですが、今はみんなケータリングを活用して、歓迎ランチはお寿司が定番になっていたり、デリ惣菜専門店のケータリングサービスを頼んでお店の方にサーブしていただきながら、みんなでランチを楽しむこともあります。"みんなで使えている感じ"が嬉しいです。「ここに来るのが楽しみ」とおっしゃってくださるお客様もいます。
それに、東京オフィスはAPCOがブランド変更をしてから初めてできたオフィスでもあるので、世界各地のオフィスから「すてき」と喜ばれました。

―― 最後に。今回のオフィスは、ご期待を超えることができたでしょうか?

印藤 はい、働き方に関しては期待以上です。このオフィスが良い形でできたからこそ、「次はこうしたい」と考えたりもします。

田邊 その際も、ぜひご一緒できたら嬉しく思います。

 

 

 

Photo=Yasuharu Hikawa Interview=Mayuge Matsumoto

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