会社や事務所の移転は、単なる住宅の転居とは比べものにならないほどの手間と工程が伴います。どこから始めればいいのか、多くの方が頭を悩ませているのではないでしょうか。最初のステップとして、手続きやタスクをしっかりと整理することが求められます。
この記事を通して、会社や事務所が移転の段階に入ったとき「何を、いつ行うべきか」を移転前後の流れで詳しくお伝えします。慌てず、事前に確認して、移転作業を円滑に進行させる手助けをしましょう!
オフィスの移転は、かなりの時間と労力を必要とする大きなタスクとなります。移転の目的や計画がキーとなります。新しい環境は、従業員の働く意欲を引き出すことができます。ただし、働く環境を最適にすることが必要です。
昔のオフィスでは固定席が主流でしたが、現代ではフリーアドレスや個別のブースを設ける企業が増えてきました。効果的なコミュニケーションがとれるミーティングスペースやリフレッシュできるスペース、WEB会議用のブースなど、従業員のニーズに応じたオフィスデザインが普及しています。
また、一部の企業はオフィスを「協創の場」として位置づけ、テレワークとオフィスワークの役割を明確にしています。その場合、オフィスは従業員間のコミュニケーションを活発にする場所となります。一方で、テレワークは自宅や他の場所での作業を可能にするもので、これは労働環境の向上として受け入れられています。このような働き方の柔軟性は、優れた人材を引きつける要因ともなります。
コスト削減はもちろん、オフィス移転の利点の一つです。ハイブリッドワークの採用により、全従業員が同時にオフィスにいることが少なくなれば、オフィスの面積を縮小することができます。これにより、賃料や光熱費、通勤費などのコストを抑えられます。
ただし、移転の主目的を「コストカット」にするのは危険です。最終的には、従業員が快適に働ける環境を作ることが最優先です。
単に移転の料金だけでなく、立地やオフィスの大きさによって、賃貸の価格が高額になることもあり、さらに新しい家具や設備の導入にもコストがかかります。そのため、移転を計画的に進めることが非常に重要です。
従業員の業務の特性や収容するべき人数を考慮して、必要なオフィスの広さを選定します。無駄なスペースを生じさせないよう、適切なオフィスの大きさを決めることが求められます。
オフィスを移転する際には、社内で専門のチームを編成する企業も存在します。従業員の新しい働き方、オフィスの配置やデザインの検討、移転のスケジュールなど、対応すべき事項は多岐にわたります。非常に労力を要するタスクとなります。特に、新しいオフィスのレイアウトの設計には慎重に取り組む必要があります。
現状のオフィスよりも、新設するオフィスが劣る環境になってしまうと問題です。どういった作業スタイルを望むのか、またオフィスでどんな機能が要求されるのか、きちんとした下調べと準備が欠かせません。
企業のオフィス移転は、数多くの手順や事前の整理が求められます。移転する6ヶ月前にどのタスクをどう進めるべきかの理解は、移転全体の流れを円滑にするための鍵となります。(6ヶ月というタイムフレームの理由は後で詳しく触れます。)以下に、主な4つのステップを示します。
移転の話が持ち上がると、まず最初に賃貸契約書の「解約通知期間」を見直してください。この期間とは、退去意向をオフィスビルの管理側に伝えてから実際に退去するまでのスパンを指します。多くのオフィスビルで、6ヶ月が一般的な通知期間とされていますが、その6ヶ月前に正式に「解約の意志」を伝える必要があります。解約の日から逆算して、新しい場所の選定から現状回復までのスケジュールを組むのです。
「解約通知期間」は、必ずしも6ヶ月とは限りません。通知期間を守らずに契約を解除した場合、違約金や未払いの賃料が発生する可能性があります。従って、きちんと契約書を確認し、移転計画を策定することが大切です。
「解約通知期間」の確認が終われば、移転プロジェクトの実行フェーズへと突入します。このプロジェクトの究極の目標は、新しいオフィスでの業務再開の準備を整えること。同時に、現在のオフィスの原状復帰やその後の手続きも解約日までに完了させなければなりません。そこで、手掛けるべきタスクを明確にするため、移転に関わる業者やタスクを一覧化します。
初めの2ヶ月の期間は、オフィスの仲介業者の選び方、物件の内覧、そして新オフィスとの契約完了を目指しましょう。仲介業者はそれぞれに特化した領域があります。例を挙げると「スタートアップ向けの物件に詳しい」「都市部のオフィス物件を中心に取り扱う」という具体的な特色を持つ業者もいます。数社の業者とコンタクトを取り、あなたの会社のニーズに合致した物件を提案する業者を選んでみてはいかがでしょうか。その上で、オフィスの内装に関する専門家もこの時期に探し始めるとよいでしょう。
次の3ヶ月は、オフィス内装の専門家の選択と実際の内装工事の期間として計画します。一般的に、デザインとレイアウトの策定に2ヶ月、そして実際の内装工事には約1ヶ月を要するとされています。内装の専門家も、仲介業者同様に特色や得意領域が異なります。デザイン力、コンサルティング能力、迅速な対応、多数のオフィス設計経験など、業者によっては様々な強みがあります。公式サイトでの施工例やクライアントインタビューをチェックすることで、その業者の特長を把握することができるでしょう。
内装の専門家選びと同時に、電話の回線、LANの工事、ビジネスフォン、そして多機能機の移設手配を進めます。時折、これらの作業は内装業者が取り仕切ることもありますが、詳細を確認することが大切です。特に、多機能機などをリースで利用している場合、リース元や販売店に連絡し、移設の手配を進める必要があります。
引越しの日が近づくと、急いで見積もりを取ることが多いものです。特に年度末の3月から4月は業者が混雑する時期です。余裕をもって事前に業者の選択を行うことを推奨します。
賃貸オフィスにおいて、大部分はテナントの責任で「原状回復」を行うのが通例です。取り外しや修復を行い、初めの状態に戻せばその後、引き渡しのステップとなります。移転した後、約1ヶ月を指標として考えると良いでしょう。解約日までには原状復帰の作業を終える必要があります。こちらに関しても、内装専門家が対応可能な場合が考えられますので、一度相談をしてみると良いかもしれません。
移転の際に完了させておきたい手続きがいくつか存在します。いくつかの手続きには提出期限が設けられているため、見逃さないよう注意が必要です。
オフィスの移転に伴い、社用の車やバイクを新しい場所に持ってくる場合、管轄する警察署に「車庫証明(自動車保管場所証明書)」を提出する必要があります。これは、車両の保管場所を示すための公式な書類となります。自社の土地や建物、または月額の駐車場などを使用する場合によって、必要となる書類が異なるため、関連する警察署に事前に確認しておくと良いでしょう。
新たなオフィスを設ける場面では、「防火対象物使用開始届出書」と「防火対象物工事等計画届出書」を該当するオフィスビルの管轄消防署へと提出します。使用を開始する7日前までが「防火対象物使用開始届出書」の提出期限です。内装工事を行わない場合でも、この書類は必要です。「防火対象物工事等計画届出書」は、内装に関連する工事を伴う場合に必須であり、工事を開始する7日前までが提出の期限となります。多くの場合、内装の専門家がこの手続きを代わりに行ってくれることがありますので、詳しくは相談してみましょう。
移転の日程が決まったら、最寄りの郵便局に「郵便物届出変更届」を提出すべきです。この転送サービスにより、旧住所への郵便物は新しい住所へと1年間無料で転送されます。
取引先やお客様に対して「オフィス移転のおしらせ」という形で通知を行います。ポストカードや手書きの手紙、またはメールで新しいオフィスの所在地、連絡先、アクセス情報などを伝えることが必要です。もちろん、ホームページやSNSを運用している場合、そちらでもお知らせを継続的に行いましょう。
移転を完了した後も、必要な手続きや書類の提出が待っています。引越しの忙しさに埋もれてしまわないよう、申請期限内に手続きを行うための準備をしておくことが大切です。以下で、移転完了後にすぐに行うべき手続きや、期限がある手続きについてまとめてみました。
新しい住所への変更を銀行に伝える手続きが必要となります。さらに、法人向けのクレジットカードを利用している場合も、住所変更を行う必要があります。銀行における住所変更は、窓口やオンラインを通じて行うことができます。必要な書類や持ち物は各銀行によって異なるので、事前に確認しておきましょう。クレジットカードについても、オンラインから所要の手続きを進められるケースが多いですが、全てのカード会社で対応しているわけではないので、前もって確認しておくとスムーズです。
オフィスの移転が本社や支社の移転を意味する場合、法務局へ「本社・支社移転登記」の手続きを行う必要があります。会社法では、登記に関する内容が変わった際、所定の期間内に変更の登記を行わなくてはならないという規定があります。
オフィスの移転を伴い、労働保険の手続きが必要となります。変更日の翌日から10日間以内に、「労働保険の名称変更及び所在地変更届」や「雇用保険事業所変更届」を所轄の労働基準監督署や公共職業安定所(ハローワーク)に提出すべきです。事業の内容に応じて、労災保険と雇用保険の手続きは異なります。具体的には、「一元適用事業」と「二元適用事業」として分かれます。例えば、一般的に農林漁業や建設業は二元適用事業に該当し、その他の業種は一元適用事業になることが多いです。
「一元適用事業」のケースでは、労災と雇用の手続きを合わせて進められますが、そのステップには注意が必要です。初めに「労働保険名称、所在地等変更届」を新たな所在地の労働基準監督署に提出し、次に「雇用保険事業所変更届」を新所在地のハローワークに提出する手順を踏みます。「二元適用事業」の場合、労災に関する変更届を新たな所在地の労働基準監督署に、雇用に関する変更届を新所在地のハローワークに提出します。
健康保険及び厚生年金保険についても、変更手続きが必要です。「健康・厚生年金保険の所在地名称変更届」を移転後の5日以内に、移転前の年金事務所に提出します。新しい事務所の所在地が「管轄範囲内」または「管轄範囲外」かによって、提出書類が変わる可能性があるため、前もって確認をしておくと安心です。
本社の移転に伴って税金の納付地が変更になった場合は、税務署への手続きが求められます。「異動に関する届け出書」を、移転前の税務署に提出することが求められます。明確な提出期限は設けられていないものの、移転した後できるだけ早く手続きを行うことが望ましいです。給与の支払業務を担当する部署が移転する場合にも、「給与支払事務所の開設・変更・廃止届」を、移転前の税務署に提出する必要があります。この手続きには、移転後1ヶ月以内の提出が求められます。
会社の本拠地を移転する際、登録免許税が必要になります。移転する所在地により、管轄の法務局が異なるため、該当する法務局に移転手続きの申し込みが求められます。同一管轄内での移転費用は3万円、異なる管轄への移転時には、新しい管轄の法務局に対する登録免許税も3万円必要となり、合わせて6万円の出費となります。具体的な管轄の確認は、法務局の公式サイトで、現住所と新しい住所に対する管轄の法務局を検索できます。法により、本拠地移転の際の登記手続きは、移転日から2週間以内に実施することが義務づけられています。この手続きを怠った場合、企業の代表者が最大100万円の罰金を受けるリスクがあるので注意が必要です。
本拠地の移転に関わる登記の手続きは法的に義務です。移転から2週間以内に完了することが求められます。手続きを怠ると、最大100万円の過料のリスクがあるので、期限を守って手続きを進めることが重要です。この手続きに関しては、司法書士や弁護士に委託することもできます。専門的な知識が求められるため、煩雑な手続きを避けるためにも専門家に依頼することがおすすめです。一般的な司法書士の報酬は、3~5万円の範囲です。
会社やオフィスの移転を計画する際、移転前と移転後のタスクを整理して説明してきました。ここで、ポイントとして特に意識すべき事項を再確認します。
移転を計画する段階で、現在のオフィスビルの「解約通知期間」を再確認することが大切です。この期間を起点として、少なくとも6ヶ月前(もしくはそれ以上の期間を確保して)から具体的な移転のプランを策定しましょう。
オフィスを新たな場所へ移す際、以下の5つの主要な作業が挙げられます。これらの作業に関して、適切な業者を選び出す必要があるのです。撤去予定日までに、現オフィスの原状回復を完了することが求められます。急ぐことなく、計画的に作業を進めることの意義は大きいです。特にオフィスのデザインに重きを置く企業は、物件の選定やオフィス作成に関する業者の選出に時間を費やすこととなるでしょう。一方で、業者の探索が煩雑と感じる場合、2〜5の段階をトータルで手がける業者を選ぶことも選択肢として考えられます。必要とするサービスに応じて、業者を選びましょう。
事務所や会社を移転するとき、多数の「手続き」が伴います。これらの手続きには期限が設けられているものもあるため、その期日を見逃さないよう注意が必要です。個人経営者や県境を越えての移転、事業の規模に応じた必要な手続きも存在します。専門家や行政・司法書士などのアドバイスを得ることは、効果的です。
今回は、事務所や会社の移転に関連するキーポイントを取り上げました。成功する移転のためには、余裕をもったスケジュール作成が求められます。個人の引越しとは違い、移転には多くのタスクと手続きが必要です。
通常業務と併行して移転タスクをこなす場合、そのワークロードは容易ではありません。したがって、移転の話が持ち上がった際には、少なくとも半年前からタスクの整理とタイムマネジメントを心がけることが欠かせません。
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