(左から順に)
セルソース株式会社 管理本部 管理部長 清森雄一 様
同 デザイン戦略部長 大熊 宏 様
CBRE株式会社 プロジェクトマネジメント プロジェクトディレクター 笹田 森 様
ユニオンテック株式会社 ワークスペースプロデュース事業部 ワークスペースプロデュース1部 シニアマネージャー 渡辺泰敏
プレゼンに臨むにあたって「僕らの会社をどのくらい調査し、どのくらい理解してデザインに反映しているのか」といった部分に焦点をあてて見ていましたが、僕が見る限り、それをしてくださっていたのはユニオンテックさんだけでした。
セルソース株式会社 デザイン戦略部長 大熊 宏 様
“こんな会社にしたい”と思うイメージ、社員の働き方改善など、お客様が思い描くご要望に対し、内装デザインを通してユニオンテックがどのようにお応えしたか? プロジェクトの裏側にある“ストーリー”を覗くことができる「オフィスメイキングnote. 」の第2弾。
再生医療の事業化を手がけるセルソース株式会社様は、会社が急成長し、従業員も増員していく中で「セルソースらしさ」という企業文化を従業員へ、そしてその従業員からお客様へ伝えていくことのできる空間づくりを行うため、本社の拡張移転を計画されました。当計画の中核メンバーの対談を通じて、その裏側を深掘りします。
―― 2015年に設立されたセルソース様。今回の移転は何度目でしょうか?(以下、敬称略)
清森 2回目です。これまで入居していた物件は2018年から利用していました。移転して1年経った頃に同じビルの2つ上のフロアも借りましたが、今回の移転前には手狭になってしまいました。ざっくり言うと、従業員の半分くらいしか座れないような状態で、昼頃に出社すると座れる席がなかったくらいでした。会議室も足りなかったですし、2フロアに分かれてしまったことで「別の階にいる人の顔がわからない」という事態にも陥っていて、早い段階で移転の話は出ていました。代表の裙本(理人)からは「次はワンフロアにしたい」とも言われていましたね。
物件探しを始めた直後にコロナ禍に入ってしまったので一回中断したのですが、収束するにつれて再検討を始めて、今回の移転に至りました。
―― では、ワンフロアで収まるような広い物件を探すため、相談したのがCBRE様だったんですね。
笹田 セルソースさんは渋谷という場所にこだわりを持っていらっしゃるので、このエリア内である程度の広さがある物件をいくつか提案しました。実際に対応させていただいたのは別の担当者なのですが、3件くらいご見学をされたと聞いています。
清森 ここではない別の物件に決めかけていたんです。けれども、契約書にサインをする寸前で、代表と「もう少し粘りたい」という話になりました。
―― それは、“もっといい物件があるかもしれないから”ということでしょうか?
清森 はい。契約しかけていた物件は、居抜きだったのでコストが抑えられるというメリットはありましたが、2フロアに分かれていたんです。それに住所は渋谷でしたが、(本社とは別の場所にある)再生医療センターからかなり離れてしまっていて。なので「ごめんなさい、やっぱり見送ります」と。
笹田 そんなとき、渋谷キャストに空きが出て、セルソースさんにぴったりではないかと思い、ご紹介したんです。
清森 これが、まさに「ここしかない!」というくらいの物件でした。
―― ワンフロアで300坪以上とかなり広いですし、再生医療センターからも徒歩1〜2分ですしね。
清森 ご提案いただいた物件リストを見た瞬間、即決してすぐに見学をお願いしました。本当ならその日のうちに見学したかったくらいでしたが、さすがに当日は無理だったので翌日に見て。そのまま申込書を記入したのを覚えています。それが2022年8月ですね。
笹田 CBREでは渋谷の物件も数多く取り扱っていますが、お客様の条件にピッタリはまるものを探し出すことはなかなかできません。このタイミングで渋谷キャストが空いたのは、幸運だったと思います。
―― 物件が決まると次は内装デザイン会社の選定へ。ユニオンテックにもこのタイミングで声をかけていただきました。その担当者の一人が、渡辺さんです。
渡辺 弊社社長の大川に言われ、CBRE様が主催するセルソース様の新オフィス説明会に参加したのが最初でした。その場で「10日後にプレゼンを行う」と聞いて、もうすぐじゃん! とびっくりした記憶がありますね(笑)。
―― ほかのプロジェクトと比べても、10日後という準備期間は短いんでしょうか?
渡辺 すごく短いです。一般的には4週間くらい前にお話をいただいて、ヒアリングをしたり資料を集めたりしてから企画内容を固め、パースを作るという工程を踏むので、10日では到底間に合いません。ヒアリングの時間もとれなかったので焦りましたが、RFP(募集要項書)やセルソース様のHPを見て会社が目指しているものや思いを汲み取り、とにかく企画をしっかり固めることを優先して、プレゼンに臨みました。
オフィスづくりに対するユニオンテックの考え方/デザインコンセプト提案資料
―― ユニオンテックのプレゼンを見て、清森さんと大熊さんはどんな印象を受けましたか?
清森 ユニオンテックさんは、コストがすごく低かったんです。聞くと、もともと職人だった方が作られた会社で、現在も設計と施工をやっているから的確な数字を提示できるそうで腑に落ちました。変な言い方になりますが、プレゼンでは見せかけの数字を提示することもできるじゃないですか? だけどユニオンテックさんは、見せかけではなく根拠のある数字だった。コストとスケジュールの管理を任されている私としては、すごく印象的でしたね。
大熊 あと、4社に参加していただいたプレゼンで、1番目に発表されたのがユニオンテックさんで。その内容が動線や仕組みまで細かく考えられていて、すごく盛り盛りだったんですよ。だから「オフィスデザインのプレゼンはこんな感じでするんだ」と思ったんですが、2社目以降は「あれ、あの部分は提案しないんだ」ということが何度かあったんです。
笹田 大熊さんの中で、ユニオンテックさんのプレゼンが基準になっていたんですね。
大熊 はい。最初に見たプレゼンが全部盛りのような内容だったから、ほかの会社さんのプレゼンの足りないところが気になってしまいました。
渡辺 一応、そこは僕らの戦略ということで…(笑)。
大熊 だとしたら良い戦略ですよ。僕は、プレゼンに臨むにあたって「僕らの会社をどのくらい調査し、どのくらい理解してデザインに反映しているのか」といった部分に焦点をあてて見ていましたが、僕が見る限り、それをしてくださっていたのはユニオンテックさんだけでした。
渡辺 ありがとうございます。ただ、今回はヒアリングする時間がなかったので、プレゼンの最後に「これはあくまでも頂いたデータをもとにした提案に過ぎません。今後は密にコミュニケーションを取りながら、良いオフィスを作っていきたいです」とはお伝えしていました。
清森 そういえば、プレゼンをしていただく前に「内覧したい」と言っていただきましたよね?
渡辺 はい。オフィスの雰囲気や従業員の皆さんの働かれている様子を見ておきたくて。断られてしまいましたが(笑)。
笹田 こちらで判断して、断ったんでしょうね(笑)。
―― プレゼン前の情報量に差があると、公正ではないですからね。
清森 でも、そう言っていただいたのもユニオンテックさんだけでした。事前に内覧するケースもあるんだ!と衝撃だったので、よく覚えています。
プレゼン資料よりソリューション提案について
―― ちなみに、笹田さんは物件を紹介するほかにPMとしても参加されていたと聞きました。業者を選ぶにあたり、セルソース様にはどんなアドバイスをされましたか?
笹田 最初にどんな会社を呼ぶかといったところからアドバイスを差し上げました。実はもともと、「プレゼンはやめましょう」とご提案していたんです。スケジュールが非常にタイトだったので、各社の実績確認と、担当者インタビューだけで判断したほうがスムーズですよと。でも「それでも見たい」とのことだったので、今回のプレゼンに至りました。また、設計施工の両方をおまかせできる会社に声をかけましょうと提案したのも私です。そのほうが、連携がとりやすいのでその後の進行もスムーズになりますからね。
そんなとき、裙本社長(現・代表取締役CXO)とたまたまお会いしたことがありまして。社長から「私、“人”で選びたいと思うんですが、この判断は間違っていますか?」と聞かれたんです。
―― 内装デザイン会社を、人で選ぶと。
笹田 私は「非常に合理的だと思いますよ」とお伝えしました。先程話にあがっていましたが、会社の考えを理解して表現できるかどうかといった部分は、能力と言うより相性なんです。そういった意味でも、人は非常に重要な評価ポイントなんですよ。
大熊 今回はむしろ、人だけで判断したといってもいいくらいです。
笹田 予算、体制、提案力などいろんな評価ポイントがあり、全ての条件を満たす会社さんは複数ありましたが、その中で1社を選ぶときどこにフォーカスするかというと…プレゼンされたご担当者様の姿勢や思い、発言、質疑に対する回答といった部分のウエイトはかなり高かったです。
―― オフィスづくりをするなかで、それぞれどんなご苦労があったのか教えてください。
渡辺 僕が一番大変だったのは、コーポレートロゴとカラーの変更タイミングですね。セルソース様やCBRE様とは定期的に打ち合わせを重ねていたんですが、「ロゴが変わるかも」という話は早い段階で聞いていたんです。ただ、実際に「これに変わります」と聞いたのは、施工開始まで4週間切ったくらいの頃。正直、ただでさえタイトなのに! と相当焦りました(笑)。
大熊 移転が決まったとき、このタイミングに合わせてロゴを刷新しようという話になっていたんです。だけど、すぐに決まるようなものではないじゃないですか。妥協できないものですし、じっくり話し合ってブラッシュアップしたい。それを繰り返した結果、渡辺さんに共有したのは2023年の1月だったかな。
渡辺 2022年末には固まりそうと聞いていて、そこから3〜4週間押したんですよね(笑)。
大熊 そうでしたね(笑)。
渡辺 そのあとくらいですかね? 裙本さんにも参加していただいた定例会で、再度方向性の整備をしたんです。そこまでは、僕らは業者でセルソース様はお客様という関係にすぎなかったんですが、切羽詰まっていたこともあり「みんなで力を合わせて、期限内に良いものを作るんだ!」とワンチームになることができて。役割関係なくお互いに助けたりアイデアを出したりするようになりました。
大熊 ああいうやり方って、業界では一般的なんですか?
渡辺 いや、珍しいケースだと思いますよ。
―― とはいえ、スケジュールがタイトであることには変わりありません。
清森 私はお金と進行を死守するのが役目だと割り切っていましたが、途中で「工期が2カ月遅れるかも」と言われたんです。1週間くらい前までは「予定どおりです」と聞いていたのに。どうやら、ユニオンテックさんとCBREさんの間では「やばいかも」という話になっていたようですね。
渡辺 確かに、笹田さんには何度も相談をしていました。
笹田 そう…なぜかいつも飲みに行っている夜帯に(ユニオンテックから)電話がかかってくるんですよ(笑)。で、「延びてしまいそうだ」と。それを簡単に受け入れるわけにはいかないので、何をしたら縮められるのかを毎回話し合いました。もともと難しい施工が入っているので、図面を見た段階で「大丈夫なのか?」とは思っていたんですけれど。
―― “難しい施工”というと、どんなものがあったのでしょう?
笹田 こちらのエントランスにもあるグラデーションの壁や、天井の曲線ですね。特に、グラデーションの壁は本当に難しいから絶対にやめた方がいいと口酸っぱく言っていました。最後の工程でもある塗装がうまくいかなかったら、すべての印象が悪くなってしまいますから。でも、「どうしてもやる」とセルソースさんは譲りませんでしたね。
大熊 やらないという選択肢はなかったです。天井の曲線に関しても、すごく手間のかかる工事になるから「直線ではだめなのか」という意見が出たんですが、ここが直線だったら意味がないと思っていました。
―― 工期よりも「やりたいこと」を優先したんですね。
大熊 だって、実際にオフィスを使うのは僕らですから。理想のオフィスにするため、とことんこだわるつもりでした。それに、スケジュール面で怒られるのはこっち(清森)ですし(笑)。
清森 ははは(笑)。とはいえ2カ月遅れはさすがに許容できないので、関係者の皆さまにご協力いただき、1カ月の工期延長で実現できました。
渡辺 僕らももっとスムーズに工事ができるように、パース要員としてデザイナーをもう一人チームに加えました。あと、施工の現場監督にも定例会に参加してもらい、その場で技術面やコストの相談をできるようにしました。これも異例だと思います。
大熊 へぇ、そうなんですね!
渡辺 そしてもう一つのこだわりでいうと、トリックアートです。ゲストをお迎えする際、少しでも語りながら社内をご案内したいという裙本さんの案で、施工が始まってから工程に加えることになりました。僕らが見よう見まねでできるものではないので、大阪から専門家を呼んで相談しながら詰めていったため、これも大変な作業ではありました。
廊下に施されたトリックアート
―― 非常に苦労の多い現場だったようですが、2023年8月に無事移転。「ZERO BASE」と名付けられた新オフィスでの業務がスタートして約半年経ちました。使い心地はいかがですか?
清森 従業員からは良い声が届いていますよ。ネガティブコメントもないわけではなく、フリーアドレスになったことで荷物を管理しづらいだとか、特定の席にモニターを置いてほしいといった声がありますが、そのスペースの用途やコンセプトを伝えてひとまずは納得してもらっています。ただこのオフィスにみんなが慣れた頃、本当にアップデートすべき箇所が見えてくると思うんです。そこは都度、改善や改良をしていかなければいけないなと思います。
―― そうして、セルソース様によりフィットしたオフィスに変えていくんですね。
清森 そうですね。将来的には、内階段を付けて2フロアにできたら面白いねという話もしています。それなら行き来がしやすいですし、以前のように「顔がわからない」といったこともなく、活発にコミュニケーションできるオフィスになると思いますから。
Photo=Tomohiro Iwai Interview=Mayuge Matsumoto