ファシリティマネジメント(FM)の特徴と、施設管理・PMとの違い
ノウハウ 2023.10.16

近年、企業はコスト削減と資源の有効活用に注力し、建物や設備を重要な経営資源として管理・活用する「ファシリティマネジメント」(FM)というアプローチに関心が高まっています。日本でも、ファシリティマネジメントの価値が認識されるようになり、企業の成長をサポートする鍵となっています。

この記事では、ファシリティマネジメントの目的や方法について説明し、さらに、ファシリティマネジメントを採用した企業のオフィス改善事例も紹介します。

 

ファシリティマネジメントとは?

ファシリティマネジメント(Facility management)はアメリカで生まれた経営管理方法で、最近、日本でも採用が増えています。この概念は、日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)によって次のように定義されています。

ファシリティマネジメント(FM)とは、「企業・団体等が組織活動のために、施設とその環境を総合的に企画、管理、活用する経営活動」のことです。

 

2018年(平成30年)1月発行『公式ガイド ファシリティマネジメント』より

 

ファシリティマネジメント(FM)とは、企業の施設や環境を経営の一環として管理する方法です。この記事では、ファシリティマネジメントの定義や、不動産の領域におけるマネジメント手法であるプロパティマネジメント(PM)との違いについて説明いたします。

 

ファシリティマネジメント(FM)の本質とは?

ファシリティマネジメント(Facility Management)の考えは、施設やその環境の有効活用とコストの最適化を追求する経営行動です。その焦点は企業が保有するビルや設備などです。これは、単に「施設管理」の範疇を超え、経営戦略としての位置付けを持っています。

ファシリティマネジメントの原点は、1970年代終わりのアメリカ。経済の厳しい時代の中、家具製造のハーマンミラー社が中心となって、ファシリティの有効活用を研究する組織を立ち上げ、その後、その考え方は全世界に拡がっていったとされています。「ファシリティ」という言葉は、日本語でいう施設や設備に相当しますが、ビジネスの文脈では、業務資産やワークスペースをも含む概念です。所有するファシリティを最大限に活用して、事業の持続的な発展を追求するのがファシリティマネジメントの真髄です。

日本の場合、以前は「スクラップ・ビルド」、すなわち古くなったら新しく建て替えるという方針が主流でした。しかし、バブル経済の崩壊後の経済状況の中で、コストを掛けずに有効活用するアプローチが求められ、ファシリティマネジメントの価値が再認識されるようになりました。

 

プロパティマネジメント(PM)と施設管理の差別化

ファシリティマネジメントの側面として、不動産の管理の中にもプロパティマネジメント(PM)や建築の運営が挙げられます。

プロパティマネジメント(Property Management)は、不動産のビジネスにおいて収益を拡大させるための監督業務とされます。一般的に、オーナーからの要請を基に実施される賃貸不動産の運営業務を意味します。以下のようなタスクで、不動産の価値を高めるためのものです。

 

プロパティマネジメントの範囲

  • テナントの獲得や取り決めに関わる業務
  • テナントへの対処
  • 賃金の徴収
  • 整理や改修のスケジュール

 

プロパティマネジメントは各々の物件の運営を意味します。施設の運営は、ビルの管理(BM)とも称され、通常建物や器具のメンテナンスを主とする手法です。日常の維持や、故障した設備の修理や更新も業務の一部です。施設の運営とファシリティマネジメントの差は、ビジネスの視野が存在するか否かです。施設の運営は建物や器具の維持や改修に特化していますが、ファシリティマネジメントでは、戦略的な視点から建物や器具の最適化を追求します。

例えば、エアコンの問題が起こった場合を考えてみましょう。施設の運営であれば器具の修理や更新が行われますが、ファシリティマネジメントのアプローチでは、エアコンの存在意義を再評価し、断熱の強化やエネルギー節約型のエアコンの導入など、環境の最適化と低コスト化を追求します。

 

ファシリティマネジメントの重要性とは?

ファシリティマネジメントは、経費を抑制し収益を拡大するための考え方として存在します。なぜファシリティマネジメントが大切か、その背景と目的を明らかにします。

 

ファシリティマネジメントの狙い

ファシリティマネジメントの魅力は、単に経費の低減だけでなく、生産の効率化や未来を見据えた適応能力の強化、CSR取り組みの推進も含まれます。

 

運営コストの低減

ファシリティマネジメントの主要な目標は経費の削減です。建物や設備は建築や導入の際にもコストがかかる上、運用時にも大きな費用が掛かります。ファシリティマネジメントの手法を用いることで、建築から解体までの全体コスト、ライフサイクルコスト(LCC)を考慮し、運用費を削減するのに役立ちます。

 

生産の効率化(従業員の満足度アップ)

ファシリティマネジメントにおいて、経費の削減だけでなく収益の拡大も狙います。最新技術の設備を取り入れ、機能を向上させることで、生産の効率や性能を上げることが期待できます。DXの推進により、人件費を定型的な業務からイノベーションを生む活動へシフトさせることで、更なる収益向上を目指せます。さらに、快適な設備と環境の提供は、従業員の満足度の向上に繋がります。チームのモチベーションやコミットメントが高まることで、業務の成果も向上する可能性が高まります。

 

適応能力の向上

建物や設備を有効に使用するためには、未来の変化にも適応する能力が必要です。ファシリティマネジメントの方法を導入して標準化することで、スペース利用や目的変更などにも迅速に対応できる体制を築くことができます。

 

CSRの実施

経営の視点から建物や施設の運営を行うファシリティマネジメントは、CSRの実施に大変有効です。

時代と共に、企業の地域への貢献やSDGsに向けたアクションがクローズアップされてきました。この流れの中、環境問題や社会的課題に目を向けた施設運営を進めることで、企業の社会的な価値を向上させることができるのです。その影響として、ビジネスパートナーとの良好な関係や、ステークホルダーに対する訴求力、そして企業の理念に賛同する人材の確保など、多くのプラス面を享受することが期待されます。

 

ファシリティマネジメントの重要視される背景

ファシリティマネジメント(FM)が重要視される背景は、経済の低迷という状況下でも企業が持続的に収益を上げなければならないという課題にあります。

日本は少子高齢化が進行し、生産年齢人口が減少しています。昔のように高度な人材を確保して簡単に利益を上げる時代は過去のものとなりました。同時に、施設の維持管理費用がバブル時代から急上昇し、企業経営に重荷をかけています。そのため、企業資産の効果的な活用と最適化に焦点が当てられるようになりました。企業の資産には、人(ヒト)、物(モノ)、お金(カネ)、情報が含まれます。競争が激しい経済状況において、優れた人材を確保するだけでなく、施設を経営資源として利益を上げるアプローチも重要視されています。

近年、働き方の多様化に伴い、ワークスペースの役割にも注目が集まっており、情報技術(ICT)を活用したファシリティマネジメントが進化しています。

 

ファシリティマネジメントを企業に取り入れるには

ファシリティマネジメントを企業に導入する際には、以下の3つのレベルでアプローチを考える必要があります。各レベルにおいて、どのようにファシリティマネジメントを展開するかを説明します。

 

レベル01

ファシリティマネジメントの最初のステップは、経営的視点から施設や環境の活用方法を検討することです。これは最も重要な部分で、企業が望むファシリティのあり方(つまり、ゴールの状態)を定義し、その実現のための戦略を策定します。

 

レベル02

次に、経営的視点で策定したファシリティのあり方を実現するために、具体的な改善を行います。たとえば、建物を事業所として改装する場合、建物の改装方法や仕様を決定し、ファシリティを理想的な状態に向けて改善します。これが業務管理の段階です。

 

レベル03

施設や設備を改善したら、ファシリティマネジメントの最終ステップは、それらを日常業務に組み込むことです。日常業務において適切にファシリティを活用できるようにし、必要な維持管理業務を実施します。これがファシリティマネジメントの実務段階であり、施設や設備の寿命コストを最小限に抑える効果も期待されます。

 

ファシリティマネジメントの導入事例

事例01:共用ワークラウンジを整備し、業務効率を向上させる《株式会社Magic Moment》

営業活動のサポートソフトウェアを展開する、株式会社Magic Moment様のオフィスは、コミュニケーションづくりを意識した空間です。メリハリのある働き方を実現するため、さまざまな相反する要素をオフィス空間に取り入れられています。

社員間のコミュニケーション増加を促すために、執務室や会議室のほかに自由に使用できるフリーエリアをご用意。さらに、カフェカウンターや家具をオフィス内に点在させることで、オフィス内の動きがよりランダムになるようなデザインをしています。

事例:株式会社Magic Moment 様

 

事例02:フリースペースの提供により、柔軟な作業スタイルをサポート《アイグッズ株式会社》

フルオーダーメイドのオリジナルグッズ、ノベルティのデザイン・製造・販売及び輸出入を行うアイグッズ 株式会社様のオフィスは、社員を幸せにし、会社の「らしさ」を体現するオフィス空間です。

カフェカウンターを中心に据え、なるべく壁を設けずに至る所で偶発的なコミュニケーションを生み出すオープンなオフィス空間が構築されています。

事例:アイグッズ株式会社 様

 

 

事例03:フリーアドレス制度を導入し、コミュニケーションの促進を図る

日本全国の中小・ベンチャー企業の成長支援行うソウルドアウト株式会社様のオフィスは、社員一人ひとりの専門性をより一層高め、互いに発揮し合う場所となっています。

「仕事をしに行く場所」から「社員一人ひとりの専門性をより一層高め、互いに発揮し合う場所へ」という考え方のもと、Activity Based Working を軸に、そこに3C( Communication,Collaboration,Covid-19)の要素を加えた「ABW+3C」をコンセプトに部署や会社という枠を超え、高い専門性と多様な得意分野を兼ね備えた人財同士が共創しやすい環境づくりがなされています。

事例:ソウルドアウト株式会社 様

 

まとめ

ファシリティマネジメントは、環境が刻々と変化する現代において、企業の持続的な成長に不可欠なアプローチです。自社の施設や設備を最大限に活用するために、まずはオフィス環境の見直しを検討してみませんか?機能的で快適なオフィス環境は、生産性向上や従業員の満足度向上に寄与します。

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