美容クリニックは医療を提供する場であると同時に、近年では顧客体験(CX)の視点から空間をデザインし、顧客満足度を高めることが重要視されています。
平岡美樹子先生は、このような視点を大切にしながら、通うたびに綺麗になる喜びや、心身の癒しを提供できる美容クリニックを開業されました。今回は、平岡先生が考える「美容クリニックにおける顧客体験」について、お話を伺いました。
当クリニックの住所は銀座8-8-8で、ビル名も「銀座888(スリーエイト)ビル」です。この数字に気づかれたお客様から「縁起の良い番号ですね」と声をかけていただくことが多く、そのたびに嬉しく感じています。開業への意欲が高まったのは、この立地と物件との出会いがあったからだと思います。不動産屋さんに案内されたときには、まさに運命を感じました。
とはいえ、すぐに決断することはできず、少なからず迷いもありました。家賃が決して安くないことや、開業当初からこんな好立地で始めることが本当に良い選択なのか、自問自答しました。さらに、父も心配している様子でした。父も開業医ですが、祖父から受け継いだ病院を経営しているため、私の「自ら新たに開業する」という選択が特別なものに映ったのかもしれません。
それでも、自分が目指す医療を実現するには独立が最適だと確信し、このご縁を逃すことはできないと思い切って決断しました。「リラックスできる空間で、通院自体が楽しみになるクリニック」を目指していたため、銀座という特別な場所でそれを実現できることに大きな期待を寄せました。
医師を志した背景には、幼少期から医療が身近な存在だったことがあります。内科医である父の姿を見て育ったため、医師という職業に対して違和感はなく、自然と憧れを抱くようになりました。大学卒業後は皮膚科の道を選び、皮膚科専門医の資格を取得。その後、美容外科に転身し、2024年11月には「リシェスクリニック」を開業しました。ここまでの道のりは決して平坦なものではなく、多くの経験と挑戦を経てたどり着いた結果です。
勤務医時代は目の前の医療に専念するだけで良かったのですが、開業となるとそれ以外にも多くの課題がありました。医療器具の発注や雇用契約書の作成、ホームページの制作など、準備すべきことは山積みでした。
しかし、もともとものづくりが好きな性格もあり、一つひとつを形にしていく過程には大きなやりがいを感じ、全てが納得のいく日々でした。この経験は、今後のクリニック運営にも大いに活かされると確信しています。
銀座という特別な場所での開業にあたり、内装には特に強いこだわりを持ちたいと考えていました。クリニックの空間そのものが、私のコンセプトを体現する重要な要素であると考えたからです。そこで、内装デザインを依頼するにあたり、知人から紹介を受けたユニオンテックさんを含む3社にデザイン提案を依頼しました。各社には、「銀座らしい高級感」を重視しながら、私が目指すクリニックの具体的なイメージをお伝えしました。
どの会社も素晴らしい提案をしてくださいましたが、特に印象的だったのがユニオンテックさんでした。担当してくださったのは若い女性デザイナーで、感性豊かで洗練されたセンスをお持ちの方でした。私が漠然と抱いていたイメージや感覚を細部までくみ取り、具体的な形にしていく姿勢に感動しました。他の2社の提案も「高級感」と「シックな雰囲気」を兼ね備えた洗練されたものでしたが、どこか一般的な美容クリニックの印象が強く、やや堅苦しいものでした。私が求める「自分らしさ」や「特別感」とは少し違っていました。
一方、ユニオンテックさんの提案には、私の感覚や思いに寄り添う柔らかさと親しみがありました。打ち合わせも非常にスムーズで、私の思いをしっかり受け止めていただけていることが伝わってきました。こうした理由から、最終的にユニオンテックさんに依頼することを決めました。
最終的なデザインは、当初の提案から何度も調整を重ね、多くの変更を加えることとなりました。コスト面での制約もあり、ユニオンテックさんには多くの無理をお願いする場面もありました。それでも、一つひとつ丁寧に話し合いながら進めるプロセスは、とても楽しく、やりがいを感じるものでした。クリニックの内装が少しずつ形になっていく中で、デザイナーさんとの感覚の共有が、何よりも大きな安心感につながりました。
クリニックの内装は、全体的に「大人かわいい」テイストを基調にしています。機能性とデザイン性のバランスを大切にしながら、お客さまがリラックスできる空間を目指しました。例えば、処置室や手術室は医療行為を行う場として、清潔感を最優先にしたシンプルな内装にしています。一方で、受付や待合スペースには特にこだわりを詰め込みました。これらはクリニックの「顔」となる場所ですので、訪れる方に最初の印象で安心感や心地よさを感じていただきたかったからです。
入口から最初に目に入る受付カウンターは、私が最もお気に入りのポイントです。このカウンターは特注で制作していただいたもので、表面はタイル貼りになっています。その質感は大理石のような艶やかさで、お客さまにもスタッフにも好評で、クリニック全体の雰囲気を象徴する存在感があります。
また、カウンター上の照明器具には、私がもともと持っていた私物を使用しているんです。コスト削減のため「この照明を使えますか?」とデザイナーさんに相談したところ、見事にコーディネートしてくださり、照明を活かす形で受付周りのデザインを考案してくださいました。細やかな配慮が内装全体に反映されていると感じるたび、お願いして本当によかったと思います。
また、メイクルームやお手洗い、廊下などの空間には、グレイッシュなトーンにゴールドのアクセントを加えることで、高級感と個性を兼ね備えたデザインに仕上げています。実は照明器具の中には驚くほど低価格のものもあるのですが、まったくそう見えない仕上がりになっているのが自慢です。
特に力を入れたのがVIPルームです。銀座の街並みを一望できるこの特別な空間は、ご家族やカップルでの利用も想定し、リビングのような落ち着いた雰囲気を意識しました。大切な時間を過ごしていただける空間として、私自身も非常に気に入っています。
さらに、クリニックの入口に設置したロゴサインもお気に入りの一つです。照明がガラス面を通して映えるデザインになっており、来院された患者さまが思わず写真を撮りたくなるようなフォトスポットを意識しました。「自分が通いたい」と思えるクリニックが形になったことは、本当に嬉しく、大きな喜びを感じています。
開業間もない今、勤務医時代からお世話になっているお客様が来院してくださったり、インスタグラムで内覧会を告知した際に新しいお客様と出会えたりと、多くの方々の温かい応援に支えられていることを改めて実感しています。こうした温かなつながりを大切にしながら、これからも一歩ずつ丁寧に歩んでいきたいと考えています。
今後は、銀座という特別な立地を活かし、海外からのお客様にも支持されるクリニックを目指したいと思います。言語や文化の違いを超え、多くの方に「ここに来て良かった」と感じていただける場所を作りたいと考えています。そのためには、まずお客様からの信頼をしっかりと築くことが最も重要です。誠実な医療を提供することで、その信頼に応えていきたいと思います。
私が目指すのは、単に施術を提供するだけでなく、長期的な信頼関係を築けるクリニックです。美容医療において結果が重要であることはもちろんですが、そのプロセスにお客様が納得し、安心して進められることも欠かせません。そのため、カウンセリングルームには全室モニターを設置し、症例をお見せしながらわかりやすく説明できる環境を整えました。また、お客様のご希望があっても、それが本当にその方にとって最善かどうかを慎重に見極め、最適な選択を提案することを常に心がけています。
現在、クリニックのスタッフは看護師3名、受付スタッフ3名、非常勤スタッフ数名で構成されています。将来的にはご縁があれば別店舗の展開も視野に入れていますが、現在は目の前のお客様一人ひとりに向き合い、満足いただける結果を届けることに集中したいと考えています。
「誠実さ」をキーワードに、アンチエイジングを中心とした治療を通じ、多くのお客様の人生をより豊かにする。それこそが、私の目指す美容医療の形です。これからも、自分が信じる医療を追求し、お客様に愛され、信頼されるクリニックとして成長していきたいと願っています。